esg

ESG経営戦略

 ESGが企業の存続や株価に大きな影響を与えるものだという認識は、今や経営者の間に広く伝わっています。「Social」はいうまでもなく「社会の」「社交的な」を意味します。江戸時代末期に日本に流入し、明治時代まで「会社」「社会」と翻訳されていました。つまり、現代の「society(社会)」も「company(会社)」も、当時はほぼ同義でした。その後「company(会社)」は「営利目的の組織」を意味する言葉となり、「society(社会)」は共同体に近い意味へと分化していきました。つまり、国際的な共通認識では、「会社」とは「社会」を作る上での一つの要素であり、言い換えると社会の課題は会社がなすべき課題でもあるとも言えます。
現在、国連でも提唱される通り、社会にとって最も重要な課題がESG(環境・社会・ガバナンス)であり、その観点を投資に反映しているのがESG 投資と言えます。世界の責任投資残高の46%でESG インテグレーションの投資手法が採用されているのはこのためです。今後さらにこの比率は高まると考えられ、ESGを経営戦略の観点から検討することは社会の一員として国際社会に受け入れられることへと繋がります。財務情報以外の情報、いわゆる非財務情報を正確に開示することはどれだけ社会に貢献しているのかを明確に示す判断材料となります。こうした非財務情報の開示要請が高まる中で、その活用法を十分に検証せずに、注視するにとどまる経営姿勢は今後のビジネス機会にとって悪影響を及ぼす可能性あります。もちろん、ESGの要求事項は多岐に渡り、ハードルが高いのも事実なので経営体力ないという理由で断念される会社もあるでしょう。一方で、ESGの活用法をしっかり設計することで、企業価値を高めるための高い戦略的価値を持つ可能性を秘めています。過去にISO、SOX、IFRSなどの標準化、制度対応が経営価値を大きく高めた事例は多くありますが、ESGの対応は経営改革において同等以上の機会になり得ると考えています。このESG対応を是非チャンスと捉えて頂き、機会を逃さぬよう、経営戦略を立てることをお勧めいたします。当社はあらゆる業種、規模の事業者様にコンサルティングサービスをご提供をさせて頂いておりますのでどうぞお気軽にご相談ください。

ESGの戦略的価値範囲

ESGが戦略的価値を発揮する場面は、経営、財務、IR、事業単位など、会社機能の全般に渡ります。このうち経営は、CSVとの組み合わせによってイノベーションをもたらします。IRはESG格付に、財務はサステナブルファイナンスといった重要な活動に繋がります。いずれも非財務情報の開示戦略に深くに関わるものです。

ESG経営戦略

ESGを新たな経営戦略として推進する上で非財務情報開示は重要となります。例えば、企業の中長期的な発展性の源泉ともなり得る「人的資本経営」は、ISO30414などでも重要な要素と位置付けられています。教育・訓練などの計画や優秀な人材を確保するために費やした「コスト」と「時間」をインプットとし、それらの実施や経営者と従業員の間での対話に費やしたリソースを加えて、どれだけ従業員の成長やエンゲージメントを得ることができたかを測定します。それにより自社の人的資本の特徴を捉え、効果的な施策を選択することが可能となります。また、人的資本経営以外にも、環境への取り組みや、顧客エンゲージメントなど事業の将来性や優位性を表象する非財務指標にも着目して、経営戦略を模索することが重要です。非財務情報は経営戦略の選択肢を大きく増やすものであると言えます。
サステナビリティ推進は、これまで多くの企業でサステナビリティ専属組織が設けられ、経営とは少し距離感を感じられるケースが多かったように思います。一方、サステナビリティ対応が経営戦略の源泉となり得る環境下では、他の経営課題と同じテーブル上で統合的に捉えて推進することが求められてきています。サステナビリティ対応は多くの企業で検討されているテーマですので、大きく経営スタイルを変革して新たな価値を生み出す良い機会になり得ます。

事業戦略活用

サステナビリティの事業戦略活用についてお伝えします。規制化あるいは要請に対する攻守両面の戦略的活用について見ていきましょう。

▼攻めの戦略

攻めの戦略とは、サステナビリティ対応を通じて自社の事業価値を高めることを目的とするものです。気候変動や人的資本などのテーマについて、何をいつまでにどれだけ取組むのか、自社の企業価値創出戦略の中でそれをどのように位置づけるかによって、非財務情報の価値が大きく変わってきます。例えば、サステナビリティの要請に応える商品を開発することでカスタマーに対して付加価値を訴求する、あるいは、行動変容を促すことを目的とした事業戦略が推進されています。
飲料メーカーの取組みの一つのケースとして、食品使用の安全性要件を満たしたDAC(Direct Air Capture:CO2を大気中から二酸化炭素を直接回収する装置)を導入し、回収したCO2を炭酸水の製造に使用しています。この商品を「Climate Neutral Drink(ネットゼロ飲料)」として消費者に向けてPRし、また、飲用することが気候変動の抑制に繋がることを訴え、消費者の行動変容まで促しています。これは翻せば、消費者の意識を変えることで、ネットゼロではない他社製飲料に対して競争優位を築いているとも言えます。他にもサプライチェーン戦略の観点から、メーカーが要求するレベルを大きく超えて二酸化炭素の排出量の削減することは、サプライチェーン全体の排出量を下げる事が求められる中では大きな優位性を築く取組みになり得ます。また、エネルギー問題に対する蓄電池事業のような、社会課題の解決に資する新規事業機会を探ることも、攻めの目線の一つと言えるでしょう。

▼守りの戦略

守りの戦略は、サステナビリティの要請に対して必要最低限の対応を取るスタンスが多くの会社のスタンダードになるかと思いますが、環境規制等の法令対応、カーボンニュートラルや人権保護の観点、ステークホルダから求められるハードルの高い様々な要請に向けて、リスクマネジメントの高度化が必要になるかと思います。
CO2の排出を例に取れば、原材料、製品設計、製造、エネルギー、物流、販売、回収などのサプライチェーン各所での取組みや、カーボンクレジットや植林などのオフセット取引、また、高排出な事業を抱える場合にはプロダクトミックスや事業ポートフォリオレベルの見直しまで多様な対応が求められます。その目標を設定し、確実な達成を促すためのツールとなるのが非財務情報なのです。

KPI/KGI設定

 ESGの取組みを推進する上で、非財務指標を指針(KPI/KGI)として適切に設定することが重要です。カーボンニュートラルを例に取れば、調査段階では、業界平均と自社、さらには競合と自社との二酸化炭素の排出量の調査を実施します。そして、競争優位を築くために必要な削減水準と取り組み方法を検討し、投資対効果を見積もります。これによりその戦略が自社として優位性のあるものであるか、あるいは守りに徹するべきかといった検討が可能となります。最終的に経営者がCO2排出量を戦略的重要指標として定め、計画し、改革実行して初めて非財務情報が戦略的価値を生み出すものなのか明確にすることが可能になります。

新規事業での活用

新規事業の創出に挑む際には、非財務指標の設計に一工夫を要することがあります。再エネや水素など社会全体の二酸化炭素排出量の削減に貢献し得る事業であっても、新しい事業に挑むことで逆に自社事業からの排出量は大抵の場合では増加することになるためです。一見して理不尽に感じられるかもしれませんが、この問題を回避するためには「その他の削減貢献量」や「Scope4排出量」などと表現される、社会全体の削減に対する貢献量を非財務指標として設計するなどの対策が必要となります。

まとめ

以上、主に事業戦略と経営戦略の観点から非財務情報の活用の可能性を整理してきました。冒頭からの繰り返しになりますが、非財務情報の開示に対する要請に応えるだけでも相当の労力が必要になります。だからこそ、開示対応を一通り終えた後に二度手間的な対応に陥らないためにも、早くから小さくでも戦略的な活用の可能性を模索して頂ければと思います。

TOP